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しかし生粋の関西育ちである私は東京の地理が分からない。地理が分からない状態で下手に関東を舞台に事件を起こすと関東人から顰蹙を買う羽目になる。矢張り無難に神戸か大阪だろうか。
色々と悩んだ挙げ句、私は1999年に世間を騒がせた神戸連続爆弾事件を題材に小説を書こうと思ったのだった。それが現在書き上げている『パンドラの匣』である。
もちろん、実際の事件をモチーフにしているだけあってキーボードを叩く指は順調に物語を書き上げる。その枚数、原稿用紙で換算して約1500枚。処女作である『血染めのシャツ』ですら500枚なので凡そ3倍だ。
2000年11月。
私は『パンドラの匣』の執筆に勤しんでいた。
FM802から流行りの曲が流れる中、私の指は物語を紡ぎ上げていたのだ。
「脱稿まで後1ヶ月か。ギリギリミレニアムに間に合いそうかな。」
「麗子ちゃんって、矢っ張りそういうの気にしちゃうんですか?」
「小説家だからね。多少は気になるよ。」
「麗子ちゃんって、面白いなぁ。」
2000年12月。
私は『パンドラの匣』の執筆に行き詰まっていた。
残り100ページが埋まらない。
犯人の自白とトリックで、悩んでいたのだ。
どうすれば埋まるのだろうか。
そんな事を考えているうちに、結局2000年12月31日を迎えてしまった。その後のことは言うまでもない。
――そして、現在に至る。
結局、『パンドラの匣』の残り100ページが埋まらないまま、私は大阪を騒がせている連続バラバラ殺人事件に巻き込まれる事になった。
その頃、大阪府警では例のバラバラ殺人事件の対応に追われていた。
捜査一課のデスクでは、赤城刑事と後輩刑事が話を交わしていた。
「それにしても、このバラバラ殺人事件は謎が多いな。」
「そうですか、赤城刑事。」
「第1の死体発見場所が大阪城公園なのはまあ分かります。しかし、第2の死体発見場所は十三です。ほぼ兵庫県との境目ですよ。」
「そうだな。確かに不自然だ。」
「距離を考えても、同じ日に大阪城公園と十三で殺人事件を起こすのは理論上あり得ません。」
「しかし、第1の事件と第2の事件の発生時間は6時間から8時間程空いている。何かしらのインターバルを入れたという可能性も考えられないのか。」
「確かに、その線はあり得ますね。この事も視野に入れて捜査をしたいと思います。」
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