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そして、先日発生した京橋の無差別殺人事件を解決したのも彼の手柄である。
その事件の犯人は案の定覚醒剤を常用しており、殺人事件に加えて覚醒剤取締法違反という二重の十字架を背負うことになった。
「何か言い残すことはないか。」
「刑事さん、俺は更生できるんでしょうか。」
「君が薬物をキッパリとやめたら、更生できるかもな。」
「分かりました。薬物を辞めるって約束します。」
「僕は、君を信じている。」
彼は不思議な力を持っており、人の心が読めるのである。もちろん、超能力でもなんでもなく、本当に読心力を持っているだけの話なのだが。
そんな通り魔事件の2週間後に発生した連続バラバラ殺人事件は、事件現場が京橋に近い大阪城公園だったこともあり当初は例の通り魔事件の模倣犯ではないかと言われていた。しかし、大阪府警の公式発表によってその可能性は泡となって消えてしまった。事件が混迷を極める中、ネット上では様々な憶測を呼ぶことになった。
もちろん、この2人にもその情報は入っていた。
「例のバラバラ事件、いっちゃんねるで盛り上がっていますね。」
「あれだけセンセーショナルな事件が発生したらアングラ界隈で盛り上がるのは必然的だ。特にこのスレッドを見るんだ。スレッドが『その35』まで続いている。つまり、この事件は不謹慎なことに盛り上がりを見せているんだ。」
「麗子ちゃん、冷静なんですね。」
「本業は小説家だ。いつだって冷静沈着でいるのが基本だ。」
「さすが麗子ちゃん。小説は全く売れてないですけどね。」
「それは言わない約束だ。」
「コホン。それはともかく、仮にこの事件の解決を大阪府警から依頼されたらどうします?」
「その時は前向きに検討するよ。神戸の爆弾事件のお陰で関西ローカルと雖も面は割れている。『解決してくれ』って大阪府警が泣きつく可能性は無きにしも非ずだ。」
「ですよね。今日の大阪府警の会見を見ていたら、きっと泣きつくでしょう。」
そして、関西中が見知らぬ殺人鬼に怯える中、第4の死体が見つかることになった。
「お昼のニュースです。大阪市内で発生しているバラバラ殺人事件について、西九条区の遊園地建設予定地で4人目となる死体が発見されました。発見された死体は西九条区に在住している公務員の鶴橋千春さんと見られており、大阪府警では3人の死体と関連付けて捜査を進めています。」
「とうとう4人目か・・・。」
「ここまで事件が続くと、大阪府警も麗子ちゃんに泣きつくんじゃないでしょうか。」
「まあ、そろそろ泣きつきそうな頃合いではあるな。」
私は煙草に火を付ける。
紫煙が渦を巻き、消えていく。
「煙草は体に悪いですよ。あまり吸わないほうがいいと思います。」
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