はじめに

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はじめに

都心から電車で1時間ちょいで行ける駅から徒歩で30分。 深い緑に覆われた丘の上にある古い洋館。 そこが俺の家。 祖父が戦後間もなく建てた洋館。 子どもの頃は家族で、そこで生活していた。 建物が老築化し、冬寒いという理由で両親は数年前、新築のマンションへ引っ越した。 俺は、この洋館に1人残った。 俺は画家。 俺の描く絵は特殊なものであるから、どこででも描けるというものではない。 簡単に説明すると、顧客の要望に応えて、故人の肖像画を描き、その故人を幽霊として召喚する。 召喚した幽霊は、顧客にレンタルする。 レンタルされた幽霊は49日経つと自然に冥界へお戻りになる。 万が一、レンタル期間に幽霊がストレスを抱えた場合は、49日経っても冥界へ戻ることができず、ストレスを与えた人は呪われる。 そういう訳なので、単なる好奇心や中途半端な気持ちで幽霊のレンタルを望む方の要望には応じていない。 詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。 ↓↓↓ https://estar.jp/novels/25973457 この洋館は、アトリエとしては最高の立地条件と建築様式であるが、生活する上では不便だ。 頑丈な石造りではあるが窓が小さく、おまけに背の高い木々に囲まれているため家の中にほとんど陽が射し込まない。 絵を描いたり保存する上では最高の環境とも言えるのだが、建物の中は常にひんやりとして薄暗く、幽霊には快適な環境であるが、生身の人間にとっては快適ではない。 生きた人間が社会生活を営む上では、近くに商店街や病院もなく非常に不便な場所なのだ。 そんな訳で今回、新しいバイトを始めるにあたり、適当な住まいを探していた。
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