明るさを教えて

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 最初に見かけたのは電車の一角。乗り込んだ先にいた人間など普段は目につかないというのに、その子を見かけた瞬間、私は目を惹かれた。  たぶん、ほかの乗客もそうだったのだろう。ちらちらとそちら側を見ている人間がいたのだ、私もつられてそちらを見るくらいしてもいいだろう。  うわ、と口から漏れそうになって、慌てて唇に力を入れる。  羨ましいくらいのストレートヘア。ショートボブがよく似合う子。だぼっとしたロンTとショートパンツから伸びるすらっとした足。身長は自分と同じくらいだろうか。ボディバッグには装飾がない。茶色一色、ということはもしかしたらあれは本革なのだろうか。大学生の入学祝い、と考えても羨ましい。  電車を降りる瞬間にもう一度見かけたその姿は、自分のほしがっていたものすべてが含まれているようで、端的に言い表すとすれば、とてもきれいな造形の人間がいるんだなと、私は思ったのだった。
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