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第三章
さてその翌日、マサルは独りで佐々木氏を訪ねた。
「おや、あの可愛い子は今日は来なかったの?」
助平丸出しの顔をして、佐々木氏がマサルの後ろをキョロキョロしながら言う。
「休んだみたいです。仕方ないかなって思ってますけど」
「そうか。恐ろしい目に遭ったからな。ワシもようわかるよ。それじゃ仕方ない、庭代くん、上がって下さい」
マサルは縁側のある、いつもの部屋に通された。縁側の椅子に座って庭の緑を眺めていると、佐々木氏はお茶を片手にやってきた。
「佐々木さんからショートメールが来たんで驚きましたよ。SMSが出来るんなら、これからは僕もそれで連絡しますかね」
「ショートメールくらいできるがな。庭代くんが生まれたときから使ってますで」
そう言うと、ニヤリとマサルの顔を見た。
「 iモードどころか携帯電話もありませんでしたよ。ところで佐々木さんの方から僕に連絡してくるなんて珍しいですね。何かありました?」
「うん。まあつまらんことなんだけどね。あんたおととい、山伏がなんやとか言うてたやろ」
「山伏、はあ、すいませんでした」
「すんませんやないねん。昨日の夜、思い出したんや。確かにあの人なら霊狐を鎮められるかもなあ、なんてな」
「ええ?誰のことですか」
「いつも後から思い出して悪いんやけどな、山伏の格好してるって言うてたやろ。ええっと腰に法螺貝ぶら下げて、頭に、何ちゅうんやろな、あれは・・」
「続けてください!」
マサルが急き立てると、佐々木さんはコホンっと咳払いをしてから、話し始めた。
「高野山って知っとるか?そこの総本山、金剛峯寺で中僧正までいった、剛力無扇という坊さんや。今は小さな寺の住職をやってるが、まだ五十代と若い。それになんでか知らんがいつも山伏の格好してる変わり者の坊さんや」
「変わり者で有名なんですか」
「そんなんやない。人の話だと、関西一の霊能力者だとか」
「高野山、近いですよね。それで、佐々木さんはその人とお知り合いになるんですか」
すると佐々木氏は目を丸くして、慌てて首を振った。
「いや、ワシは知らん。見たことも、会ったこともない」
「ぐッ・・」
「庭代くんもここで会ってないかな。宮内庁の、ほれ、沖本さんの上司、水野くん」
ああ、とマサルはすぐに思い出した。沖本さんと二人でここに来ていた人だ。痩せてて、背が低くて、地味な存在感、あの人は沖本さんの上司だったのか。
「それじゃ沖本さん経由で頼めるかも。会うときはどうです、一緒に行きますか?」
「いや、ワシは変わり者は苦手やさかいな。そやけど庭代くん、知らんで、知らんけどな、気ィつけえや」
「ん?何にですか」
「変わり者で、関西一の霊能力者やなんて、そんなん聞いたらあんた、怖くないか?」
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