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「ご両親はお前さんに黙っていたのかもしれんなあ」と無扇坊が言った。
「もしそうだったとして、考えてみてよ。お前さん、子どもにそんな話、言えますか?」
「そうですね。どんなわけがあったのかもわからないし、僕が生まれる前、もしくはものごころが付く前に起きたことなら、言わないほうを選ぶかもしれませんね」
「お前さんに守護霊がいなきゃ、今日、人生変わってたかもな」
「他人事みたいに言いますね。でも初めて知りました。そうか、兄が護ってくれてたのか」
「しかしわしはお前さんの守護霊にどこかで会ったような気がするぞ」
それは、とマサルは山伏が出てきた夢の話を説明した。
「わかった。それはわしに間違いなかろう。それならここで湯に浸かってる場合ではないな。すぐに出よう」
公用車は無扇坊には小さすぎた。
「なに、いつものことよ」と彼は自分のハイエースを運転して、マサルの車の後について走った。
帰る道中、マサルは事務所の森本さんに電話して、葉子の住所を聞いた。
お互いの住所を知りたがるなんて、森本さん、ふたりの関係を疑うはずだよな、とマサルは独り笑いしたあと、今度は沖本さんに電話した。
「あ、庭代です。仕事帰りに付き合ってくれませんか。お坊さまを連れてきたんです。ええ、公園の前まで行きますから」
美原区を通り過ぎて大仙公園まで走ると、そこで沖本さんを乗せた。
「後ろの車を運転してるのが剛力さん?びっくりするくらい大きいんですけど」
「僕も驚きましたよ。大きいのなんのって」
「大きいのはいいんですけど、本当に霊能力なんてあるのかしら」
「僕の守護霊を見ました。間違いありませんね。あの人ならなんとかしてくれますよ」
柳さんの家の近くで車を停めると、沖本さんだけが降りて、柳葉子の家に向かった。
その間にマサルはハイエースの後ろ側のドアを開けて、後部座席に移動する。
「柳さんはご両親と住んでますから、僕じゃちょっとまずい。だから彼女に呼び出してもらいます」
「さっきの公園は宮内庁の事務所がある公園だよね。彼女は宮内庁の人間なの?」
「そうです。水野さんの部下になります。あ、水野さんは移動したんでした」
「本当なの?そう言ってくれって頼まれたんじゃない?わしって、本当は嫌われてたのかなあ」
「いや、本当ですから。水野さんはきっと別れを言うのが辛すぎたんですよ」
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