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営業時間はまだ先のようだ。看板も出てないし、マサルが窓を覗いても、店内に灯りは見えなかった。
「誰もいないようですねえ」
マサルの声を無視して、無扇坊は入り口のドアをそっと押し開けた。
「お、開くようだぞ」
そう言うと、無扇坊は狭い間口を窮屈そうにくぐり抜けて店内に入っていった。
「あ~、いいのかなあ」と、マサルもその後について入った。
やはり店内には誰もいない。奥のバックヤードや事務所からも人の気配はなかった。だが、
「この上にいる」と無扇坊。
「みんな寝とるけどな。十人くらいはいるようだ」
「どうですか?やっぱり霊狐に操られてたりしてるみたい?」
「一昨日の娘と同じだ。他人と交わって、霊狐の毛をそやつの腹に入れる、それがあやつらの任務のようだ。しかしここに霊狐本体は来ておらんな。庭代くん、もう他にはあてはないか?」
「そうですね。あとは柳さんが下水道から出てきた、あそこくらいかなあ」
「うん?なんで下水道に入ってたのだ?」
「館の敷地内に竹林があったんですって。で、そこで道に迷って、出たところが黒姫山古墳近くの路上でしてね。こっちから下を見たら、普通の下水道だったんです」
「怪しいじゃないか!よし、そこに行くぞ」
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竹と竹の間に布を張って、ハンモックにしてゆらゆらと身体を遊ばせているのはキビだ。
「おい」
との呼び掛けに、キビは目を開けた。
「あ、ミッちゃん」
キビはあわてて身を起こし、ハンモックから抜け出ようとしたけれど、くるッと身体が回ってしまって、そのまま地面に落ちた。
しかしすぐに立ち上がると、
「ナンでここが?!」と身構えた。
「安心して。あなたを捕まえに来たんじゃない。私もその、あなたとおんなじ。困ってるのよ」
ミチコの様子に、キビは警戒を解いて、
「何が困ってるノサ」
「この道が開通すると、アビーさまが何をするつもりか知ってる?」
「さあ。ワイにはもうドーでもいいことやカラ」
「そう。とにかく道が繋がると、すべての操り人間が死んじゃうらしいのよ」
「ミッちゃんは大丈夫ナンちゃうかな。だって操られてナイし」
「あたしはマネージャーだから特別なのよ。困ってるのは自分のことじゃないの」
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