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マサルはそっと無扇坊に呼びかける。「三十万の操り人間をこの古墳に?無理じゃないですか」
「わからんが、あの今際の道を含めれば、それくらいは入るじゃろ。さて庭代くん。わしは隙を見て霊狐に飛び掛かるが、お前さんはそこで動かずに見とるんだぞ」
「そりゃもちろん、そのつもりです」
そんなふたりがいるのも知らず、アビーは墓地に繋がる地下壕の前までやってくると、
「荷坨さま、いよいよです。長い月日を我慢いただきましたなあ」とひとりつぶやき始めた。
「ここにある三十万の腹には、荷坨さまのお身体の素が入ってございます。吾がそれを集めて、ひとまとめにして、荷坨さまの肉を造りますゆえ、今しばらくの我慢ですぞ」
と言うと、アビーは両手を広げ、やがて来るだろう幸福な未来を思い、陶酔して目を閉じた。
そこに無扇坊が飛び出して、アビーの頭のてっぺん、百会と呼ばれるところに錫杖を振り下ろした。
それは見事命中!アビーは前のめりに卒倒した。
それに気づいた操り人間たちは、無扇坊を取り押さえようと、飛び掛かってきた。
無扇坊は錫杖を使って、飛び上がったまま一回転、離れた場所に着地した。そしてその場で腰を屈めると、何やら唱え始めた。
改めて操り人間たちが攻めてくる。すると、
えいやッ!
錫杖で空気を薙ぎ払うと、操り人間たちは突風にあったように、吹き飛ばされて宙に浮いた。無扇坊は間を置かず、錫杖をカラカラと鳴らすと両手で横に振った。
すると空中にいた操り人間たちはひとかたまりにされて、今際の道の繋ぎ目あたりに叩き落とされた。これで竹林からの入り口は塞がれた。
となると、今も大地に立っているのは無扇坊と、アビーの近くでぶるぶる震えているミチコだけだ。
無扇坊はひとり大地に倒れているアビーに向かって、呪文を唱えながら近づいていった。
「狐の怨霊よ、その身体から出よ。その身体はすでにこの世のものではないし、秦荷坨もまたこの世のものではない。すみやかに成仏するがよい」
無扇坊は次に両手に持った錫杖を高く上げて、
渇!
錫杖をドンと大地に叩きつけて音を鳴らした。
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