芙美と無羽、そして葉子

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芙美と無羽、そして葉子

庭代さんから「仕事の帰りにでも、ちょっと会いませんか」 と誘われて、芙美は驚きながらも、「わかりました」と電話を切ったところに、無羽が顔を出してきた。 ( 阿鼻姫ってあの人、ひょっとしたら本当に凄い占い師なのかもよ ) 「無羽の言ったとおりになったわね。でも私、どれだけ庭代さんがいい感じの人でも、エッチは出来ないかも」 ( わかってる。芙美は自然体でいたらいいと思う。庭代さんがどう出てくるかだよ。あたしもあの人がぐいぐい来るなんて思えないんだけどねえ ) 「でも阿鼻姫が占いでそう言ったんでしょ。ところでなんでそんな話しになったのよ」 ( 芙美こそ変なこと聞いたじゃない。あたしが別行動取りたいですって?芙美の体から抜け出たいとか、そんなこと思ってませんから ) 「そう?私は何となく感じてるんだけど、気のせい?」 ( あたしが思ってるのは、あたしと芙美はそろそろひとつになる頃なんじゃないか、ってことなの ) 「でも私は無羽みたいに強い人間にはなれないわ」 ( なれる!ひとつになるんだから。強くて、足も速くて、今までどおり化学の本も読めて、ララランド観て泣くことも出来るの。芙美はそれっておかしいと思ってるんでしょ。強くて足の速い人はララランド観たら笑うような、そんな人でなきゃ、って思ってるんでしょ。それが間違いなの。吉田沙保里だって泣くかもしれないし、それは全然おかしくないの ) 「このままじゃ駄目?」 ( このままじゃ素直になれないままお婆さんになっちゃうよ ) そう言うと、無羽はプイッと膨れっ面をして消えてしまった。 独りに戻った芙美は、それも仕方がないと思う。だって私はまだ子どもだった時に、あんな酷い目にあったのだから。 私の心の一部はまだあそこにいる。私の身体を真っ黒けにした監禁部屋だ。男の身体から溢れ出てくる臭いニオイが部屋の隅にまで染み付いている、あの監禁部屋のことだ。 今、芙美は心から、自分の汚れた身体を洗ってくれる誰かを待ち望んでいた。あちこち触ってくるんじゃなくて、身体を包むように優しく抱いてくれる誰かを待ち望んでいるのだった。
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