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すると、意識のないアビーの身体がふらりと宙に浮いて、まるで誰かから投げつけられたように無扇坊に飛びついてきた。それには無扇坊もびっくりして避けきれず、アビーを抱えたままひっくり返ってしまった。
アビーの身体をどかせて顔を上げると、アビーの浮いていた場所に霊狐がいるのが見えた。
「出たな!バケモノ!」
と叫んだ無扇坊だが、
「あ、いかん!」
手に錫杖がない。転んだ弾みで遠くに投げ飛ばしてしまったのだ。
霊狐が横に跳ねたのを見て、無扇坊はあわてて立ち上がって錫杖を拾った。そして振り向くと、霊狐の姿がない。
どこだ?とあたりを見回すと、ひとり立っていたミチコが自分の首を絞めて、苦しんでいるではないか。
しかしそれもしばらくのこと、首にやっていた手を緩めると、空に向かって、
コーン!と吠えた。
「しまった!」
無扇坊は錫杖を構えて、ミチコの元に走った。
それを見たミチコは坊に背を向けると、大きく跳ねて逃げ出した。その跳躍力は人間のものではない。しかし無扇坊もまた並外れた脚力で、距離を空けずに追いかけていった。
ひとり残されたマサルは、そろりそろりと地下壕近くにやってくると、倒れている多くの人々を見た。彼らはみな意識を失っているようだ。誰もが丸裸で大股広げて倒れていることもあって、肩を揺するのもはばかられた。それでマサルはアビーの元に足を向けた。
彼女もまた意識を失っていたが、
「美しい・・」
まるで眠ってるようだ。おだやかで品のある顔つきに、マサルは目が離せなくなった。
「この人が阿鼻姫なのか。可哀想に」
マサルはゆっくりひざまづいて、その身体を抱き起こした。
その時、がさごそと笹の葉の擦れる音にマサルが振り向くと、埴輪人形がこちらに歩いてくる。
「君はこのあいだの、キビ、だっけ?」
「姫さまを連レニ来た」
「古代に帰るのか。で、どうやって?」
そう言うと、マサルはキビの顔を眺めたが、キビは何も答えず、突然動かなくなった。
「おい、どうしたの?」
キビは表情のない顔、というか三つの穴を持っているが、その穴がそれぞれ、じわりじわりと広がって、やがてひとつの大きな穴となった。
マサルはそれを食い入るように見ていたが、突然、自分の身体に蛇が巻き付いてきたのに気づいた。
しかしマサルの心には驚きも怖れもなかった。我が身もまた蛇なのだし、互いに交尾を望んでいるのを理解していたのだ。
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