二匹の蛇

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二匹の蛇は互いの身体に絡みつきながら、愛の巣を探し当てたかのように、埴輪人形の顔にある空洞に潜り込んだ。 そこでの最初の交尾はおよそ一昼夜に及んだ。疲れはてて終わりの終わりに射精した雄蛇はそのまま眠り、目覚めたときには人間に戻っていた。 男はそばで眠る女の髪をかきあげて、露になった耳とうなじに唇を這わせた。柔らかい性感に女が目覚めると、目の前の男の唇を吸い、手探りで性器を刺激し始めた。興奮した男は女の背中に腕を回して、彼女を上にすると、豊かに満ちた乳房の先にかぶりついた。長い髪がだらりと男の顔に降りかかると、彼はそれがこそばゆくて、彼女の背中と腰に腕を回して抱き寄せた。女の腹に熱くて硬い男のしるしが押しつけられた。女は片脚をあげて股を開くと、自分の陰部に指を差し込んで、受け入れ可能かを確かめる。しかしそれはただの確認でしかなく、上げた脚はそのまま男の腰をまたいで下ろされた。 女は体勢を整えて男を下にすると、手を添えて男のしるしを体内に沈めた。肉体がつながってからも長い長い行為があって、やがて男と女は最高潮を向かえると、再び眠った。目覚めれば蛇に生まれていた。 こうして目覚める度に人間と蛇、交互の生と交わりが繰り返された。それは人の時間にして千六百年という、永遠に近い長さであった。しかし二匹の蛇はその長さを体感できなかったし、時間が逆戻りしていることにも気づかなかった。 何度目かの、何億度目かの生がはじまったとき、二匹の蛇はそこが埴輪人形の体内でないことに不思議な思いを抱いた。 鳥の鳴く声が聞こえたので、身を隠そうと茂みに潜り込むと、そこが草と生き物の匂いで溢れていることを改めて感じた。 鳥は飛び去ったようだ。二匹の蛇はゆらゆらと木材の匂いのする方向に移動を始めた。 すると奥の屋敷からバタバタと足音が聞こえ、人間の女児が庭に飛び降りてきた。牝蛇は女児の顔を見た。 雄蛇が気づいたとき、牝蛇の姿はどこにもなかった。 「姫さま!」 大人の人間の声が聞こえてきて、雄蛇はあわてて草の茂みに身を隠した。 「まあ阿鼻さま、お客さまがお見えなのですよ。すぐにお部屋にお入りください」 雄蛇はその名前に聞き覚えがあった。
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