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黒姫山の伝説
翌日は大変な騒動になったらしい。なにしろ三十万を越える裸の男女が黒姫山古墳から丹比神社までの道に気を失って倒れていたのだ。
その日の夕刊は各紙、
「古墳で集団幻覚か?カルト教団が呼びかけ?三十万の裸族が幻覚剤パーティー!ほとんどの参加者が失神!」
との大見出しが1面トップに。テレビ局も大挙押し掛けてカメラを回した。救急車は到底追い付かず、パトカーや護送車までも総動員して、美原区体育館などあらゆる施設を臨時診察所とした。
それなのに、結局テレビは一切放送しなかった。新聞も翌日の朝刊から、どのページにも載らなかった。警察の捜査さえなかった。
後日、三十万の裸族の中に国会議員や警察の大物、それにマスコミの役員などが多数いたからでは?との噂が囁かれたが、その噂も大きくはならず、SNSの中でさえ大きなテーマにはならなかった。三十万の中にどれだけの業界の大物がいたのかは知る術がなかった。
マサルが目を覚ましたのはその日の午後、区役所に設けられた臨時診察所のベッドの上だった。彼だけは警察だけでなく、市長からも聞き取り調査を受けた。その理由は彼だけが衣服を身に付けていたことと、古墳への侵入を防ぐ柵を開ける鍵を持っていたからだ。しかし結局、彼もまた送検されることはなかった。ただ区役所の中では「お咎めなし」とはいかず、来月から別の課に移動となることが内示された。
マサルは二日をそこのベッドで過ごし、三日目にやっと解放された。スマホを取り戻した彼はまず無扇坊に連絡を入れた。
『おーッ、庭代くん。あんたを残したまま戻らなくて、悪かったの』
「いえ、それはいいんです。霊狐はどうなりました?」
『それがな、わしゃ違った人間を追っかけとっての』
「え?霊狐が乗り移ったのは、あの女性じゃなかったんですか?」
『そうなんよ。あの女な、いや、あいつは女やなかったで』
「えー?まさか!それにコーン!って」
『うん。そんな風に鳴いたし、飛び跳ねて逃げたから、そりゃ霊狐に違いないとわしゃ追いかけた。十キロほど追いかけて、捕まえてみれば、あやつに狐など憑いとらんかった。その代わりにち○ち○がついとったんだな』
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