エピローグ

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エピローグ

庭城さんから電話がかかってきた時、私は事務所のみんなと打ち合わせ中だったけど、部屋を飛び出してスマホを耳にあてた。 「庭代さん?」 『ええ、連絡が遅れてすいませんでした。このあいだの件でお話ししたくって。ご都合のいい日にでも一度、』 「今夜!今夜、逢いたいです!」 三日前のことはもちろん聞きたいけれど、それより庭代さんが元気そうで、私はホッとした。安心しすぎて、涙がこぼれた。 『いる?あたし嬉しいの』と無羽に呼びかけたけれど、彼女はあらわれなかった。 庭代さんが指定した場所は中央図書館。ここから歩いて十分ほどのところだ。それで午後五時の終業のメロディが鳴ると、私は事務所を飛び出して駆け出した。 庭代さんは外のベンチに腰かけていた。走ってきた私を見て、お~いと手を振ってきた。 「走ってこなくても!」 と笑う庭代さんの前に急ブレーキで立ち止まると、私は息を切らせながら、 「心配だったんじゃないですか。なんであの夜、連絡してくれなかったんです?」と問い詰めた。 「無扇坊がふたりでいいからって。実際、全部あの人がやってくれたんです」 「庭代さんは見てただけ?」 「たぶん」 たぶんて何?と思ったけれど、私はそれは言わずに、彼の隣に腰をおろした。それから彼はあの夜のことをひとつづつ説明してくれた。 「お坊さんは女の人を追いかけて遠くに行ったと。それであなたはその場にひとり残って、何をしてたんですか?」 「はい。気を失っている占い師を介抱したんです。彼女の身体から霊狐が出たのは見てましたから、怖くはなかった。でもそのあと、知らない間に気を失ってしまったんです」 「アビーは?」 「警察からは、衣服を着ていたのは僕ひとりだと聞いてます。途中で意識が戻って、逃げたんでしょう」 「それか古代に戻ったか」 「お坊さんはそう言ってましたけどね」 「何か中途半端な感じね。霊狐もアビーも消えたなんて」 「そうなんです。でも操り人間はみんな元に戻った」 「ええ。私も昨夜、柳さんから電話をもらったんですけど、声や口調からそう感じました。うーん、ということは、解決ですか?」 「あの夜の一件はマスコミは報道を止めましたが、SNSでは黒姫山の伝説、みたいな噂話として記憶に残りそうです。観光課としては、ちょっと楽しみかも」 「都市伝説ですね。それはよかったじゃないですか」 「柳さんが、です。僕は移動です。督促状を持って家庭訪問だとか。でも仕方ないですわ」
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