芙美と無羽、そして葉子

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庭代さんとの待ち合わせの場所は北野田にあるジョイフルというファミレスだ。芙美が約束どおり七時に店に入ると、混雑した店内の隅のテーブルでひとりコーヒーを飲んでいる庭代さんを見つけた。 「早いですね」と芙美が言うと、 「騒がしいところに呼び出してすいません。給料日前はよくここに来るんです。さ、何か食べませんか」 と、庭代さんは相変わらずで、艶っぽい話しにはならないように思えた。 注文を済ませ、水をひと口飲んだところで、 「今日、また佐々木さんのところに行ってきたんです」と庭代さんが話を始めた。 話を聞いてる間に料理がやってきたので、野菜やお肉を口に運びながら終わりまで聞いた。 「ということで、水野さんに協力いただけないかと思ったんです。ところで沖本さんはお坊さんのこと、水野さんから聞いたことは?」 「全くの初耳です。剛力空也坊さまねえ。水野さんは無口だからなあ」 「明日にでも頼んでみてもらえませんか。電話一本してくれたら、今週末に佐々木さんと高野山に行こうと思ってます」 「わかりました。ところで質問です。あのときなんで庭代さん、山伏のことを聞いたんです?」 「それは、言えないと思うけど、言ってみようかな」 と奇妙なことを言ってから、話を続けた。 「その、今まで誰にも言ったことがないんです。馬鹿みたいに思うでしょうけど、言います。言うけど、声に出るかどうかなんですが」 「どうぞ。私、きっと驚きませんから」 「はい。実は僕の家には座敷童子が!あれ?言えた?」 と庭代さん、驚いた顔を芙美に向けた。 「座敷童子が何です?庭代さんの家に棲みついてるんですか?」 「あ、そう、そうなんです。あれ?おととい占いの館では、そのことが声にならなかったんですが」 「私には言えたってことですか。どうぞ続けてください」 「はい、では。僕は昔から、たまに座敷童子を見るんです。家の中で、どの部屋というわけでもなくて、それも本当にたま~になんですけどね。で、座敷童子に遭ったその夜に、必ず正夢らしきものを見るんです」 その夢の中で、山伏が阿鼻姫を除霊したのだと庭代さんは言った。そのあと芙美の反応が気になるのか、黙って芙美の顔を見ていた。
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