芙美と無羽、そして葉子

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「阿鼻姫の前で座敷童子さんのことが声に出なかった、というのは、まさに座敷童子さんの意思だったんじゃないですか」 「はい?」 「阿鼻姫に敵だと気付かれないように、庭代さんのお口にチャックしたんですよ、きっと」 「そうか。じゃあ座敷童子は僕を守ってくれたんですね。あ、それなら沖本さんも夢に出てきたんですが、それはつまり僕の味方ということか」 「私がその夢に?」 芙美は訝しげな目を向けた。 マサルは芙美が素っ裸だったことは秘密にして、 「ええ。それにもうひとり、女性がいたんですが、僕は夢の中で、彼女が沖本さんの恋人なのかなって思ったのを覚えています」 無羽のことだ!と芙美は思ったが、そのことを言えば話がまた長くなる。 「恋人はいませんけど、今はそこはスルーしましょう。でも座敷童子さんて本当にいるんですね。私、会ってみたいわ」 「会いたくて会えるもんじゃないんです。残念ですが。さて、話も終わりましたし、そろそろ出ましょうか」 庭代さんはやっぱり私をレズビアンだと思ってるんだわ、と芙美は思った。 憎ったらしい人! 「ねえ。ひょっとしたら座敷童子さん、今夜また出てくるかもしれませんよ。ちょっとだけお家にお邪魔しちゃ駄目ですか?」 「え?出てきませんよ。だってその前に出てきたのって」 「見たいんです!座敷童子さんが棲みついてる家。この前はそんな話、言ってくれなかったから」 「うーん。まあいいですけど、期待しちゃダメですからね」 芙美は自分のクルマを駐車場においたまま、庭代さんのクルマに乗り込んだ。 すると後ろの座席から無羽が顔を出してきた。 ( さ、これでどう?あの占い師の言ったとおりには進んでないけど、まだチャンスは残ったわね ) 確かに占い師のシナリオどおりには進まなかった。 クルマが庭代さんの家に近づくと、芙美は玄関前に女性の人影があるのに気づいた。 「あれ?誰かいますね。庭代さんの帰りを待ってるのかな。もしかして恋人?」 「なんだ、柳さんですよ」 確かに葉子のようだ。 庭代さんが自宅横の駐車場にクルマを停めて、外に出てくるまで葉子は玄関前でじっとしていたが、庭代さんの顔を見るなり、 「お帰りなさ~い」 いそいそと歩み寄ってきて、彼の手をギュッと握りしめた。 呆気に取られてふたりを眺める芙美の横から、無羽があらわれた。 ( あらあら。ありゃ完全に狙ってるよ。芙美、頑張らないと取られちゃうかもね )
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