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剛力無扇坊
翌朝。出勤すると係長から、
「柳さんから電話がありました。今週いっぱい欠勤するそうよ」
と連絡を受けた。
昨夜のこともあってマサルは午前中を事務所内で過ごした。
「庭代さん、珍しいですね。今日は一日、デスクワークですか」
と森本さんがニッコリしながら聞いてきた。
「どうかな。電話を待ってるんだけど、それ次第ですね」
「へえ。ひょっとしたら柳さん?」
「まさか」と、答えたところにスマホの着信音が鳴った。
「沖本さん、どうでした?」
それから十分後、マサルは社用車で河内長野市に向かった。町外れにある光睡寺の住職をしているそうで、確かめてはいないが、午後はたいてい寺にいるから、とのことだった。
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「水野さん、すぐに教えてくれました。ですが、自分は行かない、というより、水野は本庁に転勤したと伝えてくれ、とのことでした」
「ふうん。わかりました。じゃあ今からでも行きたいんですが、沖本さんはどうです?」
「私は夕方まで陵内点検です」
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平日ということもあって、さほど渋滞もなくスムーズに河内長野市に入った。そこから三十分かけて、光睡寺に到着したのは午後三時前だった。
小さな寺だ。坊さまいるのかな、とマサルは思った。変わり者らしいが、どれだけ変わってるのか。でも変わり者でよかった。常識人なら阿鼻姫の話を信じないだろうから。
本堂の戸は開いていたが、横に平屋の家があったので、マサルはまずそちらに向かい、玄関の戸を引いて呼び掛けてみる。が、返事はない。それで彼は本堂に移動すると、階段の下で靴を脱ぎ、そのまま上がった。
本堂の大きさに比べて大きな仏座像が正面にあった。マサルはキョロキョロと中を覗いて、
「すいませ~ん。どなたかいませんかあ?」と声をかけた。
すると座っている仏像が突然に立ち上がった!
・・・のは見間違いだ、仏像と変わらぬ丸坊主の大男が仏座像の背後からぬっくと立ち上がったのだった。
マサルは腰が抜けてその場に尻餅をついてしまっていたが、そのことに気づくと、驚きで見開いた目が元に戻りはじめた。
「あの、突然すいません・・」
背は二メートルくらい。たくし上げた肩はコブのように盛り上がっているし、ちらりと覗く胸元や脚、どこを見てもムキムキだ。そんな肉体に、坊主頭の精悍な顔つき、まさにスーパーヒーローだ!とマサルは思わず感動した。
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