剛力無扇坊

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「おやおや。いい男がこんな寺に何用かのう」 「剛力無扇さまですか?」 「いかにも無扇じゃ。さ、座られよ」 と、無扇坊はマサルのところまでやってきて、彼の手を両手で握り、座らせた。 「私、堺市役所の者なんですが、ご相談したいことがあって来たんです」 「ふんふん」 とうなずきながら、無扇の手はマサルの腕と手をさすり続けている。 「その、無扇さまは関西一の霊能力をお持ちだとか」 「およ?そんなこと、誰に聞いたのよ」 「宮内庁の水野さんです。その、古墳の研究なんかで一緒になったことがあるんです」 「水野くん!」と無扇坊は笑顔をさらに崩して、 「そう、水野くんですか、いや最近顔見ないけど、どうですか、元気にしてますか?」 「ええっと、別の人に聞いたんですが、彼は本庁に移動になったそうです」 「え~、そうなの」 無扇坊は残念そうな顔をすると、ようやくマサルの腕から手を離した。 「それは寂しいなあ。いやね、彼とはウマが合うというのかな、はまり具合がちょうどいいんだよね」 「はまる?あ、話が合うということですね。それは残念ですね」 「本庁というと東京都だねえ。千代田区だねえ。いつか行けるかなあ」 「あの、無扇さま」 「あ、すまん。それで相談とは何ですか。いい男の頼みなら聞かねばの」 筋肉隆々の大男のくせに、少しばかり口が軽いなあ、と思いながらも、とりあえずはとマサルはこれまでのことを話した。阿鼻姫のこと、佐々木氏の知り合いのこと、そして柳さんのことだ。 「ハーン、狐憑きだな」 「やっぱり」 「まずはその、柳葉子に会ってみよう」 「ありがとうございます。では、いつが都合いいですか」 「今から行くよ」と無扇坊は軽々と言った。 「だが、湯に浸かってからね。今日は昼過ぎからここの掃除をしていてな。今は仏さんの背中を清めていたのよ」 「そうでしたか。それであんなところから」 「うん、あんたも汗をかいてるね。わしゃ汗臭いのは苦手なんよ。一緒に入りましょう。実はここにはな、温泉を引いてるんですわ」 マサルは温泉なんかに入りたくないけど、どうしようと考えていると、そこに若い坊さま、修行僧がふたり入ってきた。 「ただいま戻りました」 無扇坊は彼らを見たとたん、 「今日はもう帰って良いぞ。わしゃこれからこの御仁と入浴じゃ!」と一喝した。 瞬間、ふたりの修行僧は本堂を飛び出していった。
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