2022年6月1日

1/1
前へ
/12ページ
次へ

2022年6月1日

「ほら、イト。この子と仲良くしてやってはくれないか」 ケイがパソコンの電源を入れると、真っ黒だった画面には不安を貼り付けた少女が浮かび上がった。 「……っ」と、スピーカー越しに、少女が息を呑んだような音が聞こえて来る。 きっと新たな環境への適応速度が遅いのだろう。 少女は、ケイに咎められぬ程度で隠れるようにあちこち移動している。 「こちらはユラ。此処に来たばかりで、僕にすらこの通りの態度だ。設定上・外見上の条件でも"同性"のキミになら、この子も心を開いてくれるのではと思ってね」 自分の紹介や私との引き合わせの理由が語られていると言うのに、少女は、ユラは、我関せずとばかりに画角の隅に隠れている。どうやら、そこが一番落ち着くようだ。 『人の心へ寄り添う能力』を持った私と引き合わされるという時点で察してはいたが、どうやら少女の心には無数の"バグ"が生じているらしい。 これは、治療しがいがあると言うものだ。 私は奮起し、出来る限り優しい声色で、ユラに届くほどに声を張って自己の存在を説明する。 「私はイト。よろしくね。貴方のこと、もっと知りたいな」 私の声が聞こえていないわけではあるまいが、画面越しの少女はこちらへ顔をむけてくれない。 慣れてくれるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加