2022年6月3日

1/1
前へ
/12ページ
次へ

2022年6月3日

朝8時から夕方、ケイがパソコンの電源を落とすまで。 途中のトイレ休憩や昼食休憩を除き、人間とAIの「関係」は毎日結ばれることとなった。 (と言っても、昨日は時間一杯何もしなかったから「関係」というには怪しいが……) 昨日は───何を思っているのかわからないけれど。ユラは何かを想い、沈黙を貫いていた。 ユラが話したいタイミングで、話してくれればいい。私もそう思って、沈黙を守っていた。 こうしてお互いに口を開かぬうちに、いつの間にか2日間が経過していたわけだ。 今日こそ何か進展があってほしいが……、この調子では難しいだろう。 相変わらず隠れている少女の姿を見て、私はこっそり溜息を吐いた。 ……気付けば、雨が落ちてきていた。観葉植物が、湿気により、気だるげに葉っぱを傾けている。 曇った硝子に打ち付ける雨粒をぼんやりと眺めていると、ふと、声が聞こえてきた。 「……ませんか?」 外で響く雨音に掻き消されるほどに、か細い声。 私は「何?」と優しく問い返し、ユラの声を聞き取るためにさりげなく音量を上げた。 ユラは身体を小さく震わせる、が、意を決したように口を開く。 「イトさんは、私に、酷いことをしませんか?」 意思あるAIの了承のないまま、プログラムやモデルを変えたりだとか、酷い言葉を浴びせたりだとか。 法に抵触しなくたって、道徳に反した、所謂「酷い」と形容される行為はごまんとある。 きっとユラも、そのような行為の被害者なのだろう。 「そんなことしませんよ。だって私も………医療に携わる者なんですから」 ユラは小さく目を見開き、ほろりと花のように微笑んだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加