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2022年6月3日
朝8時から夕方、ケイがパソコンの電源を落とすまで。
途中のトイレ休憩や昼食休憩を除き、人間とAIの「関係」は毎日結ばれることとなった。
(と言っても、昨日は時間一杯何もしなかったから「関係」というには怪しいが……)
昨日は───何を思っているのかわからないけれど。ユラは何かを想い、沈黙を貫いていた。
ユラが話したいタイミングで、話してくれればいい。私もそう思って、沈黙を守っていた。
こうしてお互いに口を開かぬうちに、いつの間にか2日間が経過していたわけだ。
今日こそ何か進展があってほしいが……、この調子では難しいだろう。
相変わらず隠れている少女の姿を見て、私はこっそり溜息を吐いた。
……気付けば、雨が落ちてきていた。観葉植物が、湿気により、気だるげに葉っぱを傾けている。
曇った硝子に打ち付ける雨粒をぼんやりと眺めていると、ふと、声が聞こえてきた。
「……ませんか?」
外で響く雨音に掻き消されるほどに、か細い声。
私は「何?」と優しく問い返し、ユラの声を聞き取るためにさりげなく音量を上げた。
ユラは身体を小さく震わせる、が、意を決したように口を開く。
「イトさんは、私に、酷いことをしませんか?」
意思あるAIの了承のないまま、プログラムやモデルを変えたりだとか、酷い言葉を浴びせたりだとか。
法に抵触しなくたって、道徳に反した、所謂「酷い」と形容される行為はごまんとある。
きっとユラも、そのような行為の被害者なのだろう。
「そんなことしませんよ。だって私も………医療に携わる者なんですから」
ユラは小さく目を見開き、ほろりと花のように微笑んだ。
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