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2022年7月20日
夏の空に響き渡る蝉時雨が、密閉されているはずの室内まで染み込んでくる。
紛うことなき真夏日だ。
暑いと言うのに、画面越しのユラは長袖のカーディガンと地味な色のワンピースという出立ちを崩さなかった。
「そのカーディガン、脱いだら?」
私が言うと、ユラは小さく身体を震わせた。
私と向き合って話せるようになる以前に見せた反応と、限りなく似ている。
何か失言をしただろうか、と私が思考を紡ぐ前にユラはカーディガンを脱いで初めて素肌を露わにした。その病的なまでに白い肌には、痛々しい痣や切り傷が這っている。
「っ、モデルに損傷が……。大丈夫、なわけないよね」
ユラは、小さく「もう、いいですよね」と断って再びカーディガンを纏った。
成る程、損傷を好んで人に見せたいとは思わないのが心理というものだ。
私は一拍置いて、「ごめんね」と、配慮の欠如を謝罪した。
しっかりとクーラーが効いた部屋の空気は、酷く冷たかった。
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