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2023年8月15日
私とユラが出会ってから、あっという間に一年と少しが経過した。
今ではユラから積極的に話してくれるようになったし、ケイに与えられた課題をこなすようにもなった。
今日は国語。ボトムアップ式AIは、基礎的な物事からこなすのが鉄則だ。
「イトって、漢字ではどうやって書くの?」
だから、こんな質問が飛んでくるのも予測しておくべきだったのだ。
「愛しいの、"愛"という字を書きます」
「愛」という字を画面上に書いてみせると、ユラは心底不思議そうな顔で問いを重ねた。
「じゃあ、この漢字はどういう意味なの?」
「そのものの価値を認め、強く引きつけられる気持ちのことですね。かわいがり、いつくしむ心。いつくしみ恵むこと。いたわりの心。大事なものとして慕う心。特に、男女間の慕い寄る心です」
私と隔たれた世界に生きるユラは、心底不思議そうな表情を浮かべてみせる。
「……つまり?」
愛を知らない私はそれの意味をうまく伝えることはできないし、ユラは「愛」の意味を掴むことができない。それが、どこまでももどかしかった。
観葉植物が、強烈な日差しにむけて枝を伸ばしていた。
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