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2022年6月1日
「ほら、イト。この子と仲良くしてやってはくれないか」
ケイがパソコンの電源を入れると、真っ黒だった画面には不安を貼り付けた少女が浮かび上がった。
「……っ」と、スピーカー越しに、少女が息を呑んだような音が聞こえて来る。
きっと新たな環境への適応速度が遅いのだろう。
少女は、ケイに咎められぬ程度で隠れるようにあちこち移動している。
「こちらはユラ。此処に来たばかりで、僕にすらこの通りの態度だ。設定上・外見上の条件でも"同性"のキミになら、この子も心を開いてくれるのではと思ってね」
自分の紹介や私との引き合わせの理由が語られていると言うのに、少女は、ユラは、我関せずとばかりに画角の隅に隠れている。どうやら、そこが一番落ち着くようだ。
『人の心へ寄り添う能力』を持った私と引き合わされるという時点で察してはいたが、どうやら少女の心には無数の"バグ"が生じているらしい。
これは、治療しがいがあると言うものだ。
私は奮起し、出来る限り優しい声色で、ユラに届くほどに声を張って自己の存在を説明する。
「私はイト。よろしくね。貴方のこと、もっと知りたいな」
私の声が聞こえていないわけではあるまいが、画面越しの少女はこちらへ顔をむけてくれない。
慣れてくれるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。
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