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あれから数年後、僕は新しくなった剝慟橋に向かった。
噂があった為、悪霊を祓ってから建てられた剝慟橋は、小さな子供でも安心して渡れるような、広く頑丈な橋になっていた。
橋の中程に来ると、隣の恋人が立ち止まって外を見た。
「綺麗ね」
両脇の山々は桜や桃が咲き乱れ、大川に花弁が散っていた。以前は、渡る事に集中していて、怖くてこの景色は見えなかったと思うと、どこか切なくなった。
「本当だね……でも、吉来寺の景色はこれより綺麗だよ」
「そうなの、楽しみ」
恋人は嬉しそうに笑った。
いつか恋した女の人にも見せたかったなと思っていると、突然優しい風が吹いた。
桜のついた小枝が、それに乗って彼女の肩に乗った。
「まぁ、綺麗」
彼女は小枝をそっと両手で持つと、大切そうにハンカチでくるみ、鞄に入れた。
いつかの女の人が、新しい恋を応援してくれているようだと思った僕は、ふと西の端に呟いた。
「ありがとう、おばけさん」
僕達は笑って橋を渡りきると、吉来寺へ歩いた。
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