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再会
松永 悠斗。24歳、祖母と2人暮らし。
母は俺が産まれてすぐに亡くなって、父も高校生の時に癌で亡くなってしまった。
今は祖母の経営する喫茶店で働きながら、Ω専門のデリヘルで身体を売って生活をしている。
パートナーはいない。好きな人もいない。
父の心配性でΩ専用校舎のある私立高校に通っていたからαと、いやβとも付き合ったことなんてない。て言うか正直初恋もまだだ。
けれど、いつか好きな人と結ばれたい…って、思ってるのはちょっと夢見すぎかもしれない。
今日は仕事だった。どちらのかと言うと、夜の方。
俺には同じ店で働く友人がいた。
柊木 圭、店での名前は柊からとってシュウだ。
シュウとは高校からの付き合いで、前は圭と呼んでいたけれど店で働き始めてからシュウと呼ぶようになった。
今日は早めの夕飯をシュウと2人で食べることにした。
「シュウ!」
待ち合わせのファミリーレストランに行くと既にシュウはそこにいた。
「悠」
「待たせてごめん!」
ばあちゃんの店手伝いを少しだけ延長してしまったせいで家を出るのが少し遅れてしまったのだ。
待ち合わせの時刻は10分前には過ぎていた。
「別に大丈夫だよ。今日も手伝い?」
「そうそう、今日はちょっと人多くてさ…」
いつも通り他愛もない会話をしながら、2人でメニューを眺める。
オレはハンバーグとパンのセットを、シュウは坦々麺を注文した。
「そいえばさあ」
口を開いたのはオレだった。
「何?」
「この前父さんの命日で墓参りに行ったの」
「うん」
シュウはオレの両親が亡くなっていることを知っている。
高校の時、父さんが亡くなって酷く落ち込んでいた時も隣で一緒にいてくれたのをよく覚えている。
「そしたらさあ、めっちゃ綺麗な顔の男の人がいてさ、多分αなんだけど」
「へえ?」
シュウが珍しそうな顔でこちらを見てくるのにオレはまだ気付かずに、更に言葉を紡ぐ。
「ほんとにかっこいい人だったんだよ、気さくに話してくれたし物腰柔らかいし、しかもΩ専門のお医者さんらしくて…って、何その顔?」
言葉の途中でオレはようやくシュウの表情に気づいた。
「いや?悠が誰かにそうやって興味持つの、珍しいから。αなら尚更ね」
「そうかな…いやいや、別にそんなことないよ」
シュウの言葉に一瞬考えたけれど、別にそんなことは無い。
テレビで見るモデルや俳優にかっこいいなと思うし、実際に会う人も素敵な人だなと思うことはある。
「そんなことあるよ。悠、フレンドリーと見せかけて結構人と一線引いてるから」
「も〜、そんなことないってば!」
本当にそんなつもりはない、けれどそれが他人から見たオレなのかも、とは思う。
「で?その人とは何かあったの?」
「いや、別にこれと言ったことは…ただ喋っただけ」
「…じゃあ尚更びっくりするんだけど」
オレが否定しようとしたところで、スタッフは俺の前にハンバーグを置いた。
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