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オレたちはいつも通り他愛もない会話をしてから、レストランを出た。
これから仕事は少し憂鬱だけれどシュウと食事をして話を出来たから満足だ。
「あれ、ハジメさんじゃない?」
店に近づくと1人の男性が見えた。
彼はオレたちと同じ店で働くΩのハジメさんだ。
年齢はオレたちより3つ上だけれど、気さくで話しやすくて親しい人だ。
「ハジメさーん!」
オレがハジメさんの名前を呼ぶと、それに気づいたハジメさんがこちらを向いた。
オレたちは少し早足でハジメさんの元まで歩いた。
「お前らも今から?」
「はい」
そう言ってオレたちが2人で店に入ると、既に来ていたキャストのみんなが挨拶してくれる。
オレたちはまた仕事の時間になるまでみんなで雑談をした。
この間会った彼のことはみんなには話をしなかった。
シュウの言っていた一線引いている、というのはこういうことだろうかと思ったけれど、勿論ここにいるみんなオレは大好きだ。
そしてオレは仕事の時間になった。
言われたホテルの一室に向かっている途中だった。
今日のお客さん、ちょっと乱暴で嫌なんだよなあ。
ぼんやりと考えながらロビーを歩いた。
もしも、今からのお客さんがあのひとだったら…って、何考えてんのオレ。
ぶんぶんと頭を振って、部屋の扉を鍵を開けた。
「こんばんは〜!」
いつも通りの元気いい声でお客さんに挨拶する。
元気いいというか煩いというか、まあそれは普段と変わらないけれど。
「お、悠くん。こんばんは。今日も元気だね」
「えへへ、勿論ですよ!」
そのお客さんは40代くらいの男性だった。第二性は勿論α。流石αと言ったところで顔立ちはとても40代には見えない。
「まあまあ、立ってないでこっち、座りなよ」
そう言ってベッドに座っているお客さんは彼自身のぽんぽんと隣を叩く。
オレはベッドに近づいて隣に座った。
大人2人、しかも2人とも男が寝転んでもまだ余裕のある大きなベッド。
ここでもう何度も他人と一夜を共にした。
もう怖いとか不安とか、そんな気持ちは大方無くなった。
「悠くん?どうしたの?」
ぼんやりとしていたせいか、お客さんはオレの名前を呼ぶ。
「いえ、少し考え事してただけです!全然大丈夫ですよ」
そう言ってにこっと微笑む。
このお客さんは多分、オレがそんなふうに笑うのが好きだ。
そしてオレは、今日もこの大きなベッドに沈む。
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