プロローグ

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プロローグ

 彼と出会ったのは10月、父の命日だった。 「こんにちは」  父の墓参りに行くと、先客がいた。  挨拶をすると、ゆっくりと振り返る。  あ、αだ。  何の根拠も無いけれど、直感的に分かった。  向こうもすぐにオレがΩだと気づいたはずだ。オレはΩ用のチョーカーを付けているから。  綺麗な人だな、αだから当たり前かと1人心の中で呟いていると、彼からも挨拶が返ってくる。 「こんにちは」 「寒くなってきましたね」  それとなく話し掛けてみる。  特に意味は無いけれど、2人で無言はちょっと気まずい。 「そうですね」  落ち着いた雰囲気の男性はそれだけ返事をする。 「もうお墓参りは終わりですか?」 「いえ、まだ花を供えてないので」  確かに片手には綺麗な花が握られていた。  花の種類なんてオレには分からないけれど、彼と同じように綺麗な花だった。 「綺麗なお花ですね。ありがとうございます」  にこりと微笑むと彼は少しだけ首を傾げた。 「もしかして、松永先生の息子さんですか?」 「はい、そうですよ」 「そうだったんですか。…確かに、先生に似てるかも」  それから、少しの時間、彼と一緒に話をした。  彼は千歳(チトセ) 紘哉(ヒロヤ)さんと言うらしい。年齢は25歳とオレより1つ上で職業はΩ専門医だそうだ。  父は小児科だった。幼い頃から体が弱く、入院することもあったそうで、その時の主治医が父だったらしい。  昔オレが小さいとき、少しだけ病院に入院している子供の話を聞いたことがある。もしかしたらその1人が彼だったのかもと思う。 「ありがとうございました」 「こちらこそ。では」  彼との楽しい時間はあっという間に終わって、別れの時間が来てしまった。  では、そう言って身を翻していく彼が何となく惜しくて、俺はもう一度口を開いた。 「また会えたら、お話してくれますか」  その言葉が聞こえてか、彼が振り返る。 「勿論」  そう言って、彼は歩いていった。  
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