1 特別な出会い

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1 特別な出会い

 高校に入って1か月ほど経った昼休み、彼は担任の教師に呼び出された。大学を出て教師になったばかりの若い男性の教師で、生徒と友達感覚で付き合う兄さんのような人だった。 「神木、まだどこのクラブにも入っていないよね。このまま無所属を続けるつもりかな。…個人の自由だけど、まさか通学時間がネックになっているの。」 「そんなことありません。通学に利用している三州鉄道は本数が結構あります。それに家の最寄の東鹿島駅は終点ですが、伊浜駅との間は30分強しか時間が掛かりませんから。」 「じゃあ、どこでもいいから是非クラブに入った方がいいな。高校生活が2倍楽しくなるぞ。」 「はい。どうするかはわかりませんが、少し考えてみます。」  アドバイスをしてくれた先生が気を悪くしないように、彼は嘘をついた。クラブに入る気は全くなかった。  その日の放課後、ほとんどの生徒がクラブ活動を始めようとするのを横目に見て、彼は学校の出口の靴箱で素早く靴を履き、伊浜駅行きのバス停にダッシュで向かった。  バスは直ぐに来たのでそれに飛び乗り、伊浜駅に着くと長く高い階段を素早く登り切った時は、息がほとんど切れそうだった。  駅のホームを見渡した時、彼はほっとした表情で言った。 「よし。いた。間に合った。」  彼の視線は、ある女子生徒に向けられていた。  このところ、彼にとって毎日、唯一絶対の目標は、朝と夕方、女子生徒と同じ電車の同じ車両に乗ることだった。    
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