2人が本棚に入れています
本棚に追加
「男の人が亡くなったんでしょ?」
「あら、意外ね。興味がないと思ってたわ」
「興味も何も、勝手に耳に入ってくるのよ。家を出てから、どこにいたってその話題ばかりなんですもの」
夏月は溜め息まじりに愚痴を溢した。
「じゃあ、例の噂についても知っているのね?」
訊かれて、夏月は口の端を下げた。美海は“呪い”のことを指しているのだろう。男性の死に不審な点があるとはいえ、夏月にはそれが呪いによるものだとは到底思えないのだ。
「痴情のもつれよ、きっと。女のほうがヒステリーを起こして、追い詰められた男がうっかりベランダから足を踏み外したの。で、女は怖くなって逃げたのね」
「あなたって現実主義よね。あの時間帯に言い争っていたら、死ぬ前に警察が駆けつけてるわよ」
傘を畳んだ夏月たちは、正面玄関で上履きに履き替え、二階の教室へ向かった。階段の途中で、後からやってきた凪子がさらに加わる。彼女は二人の間に割り込み、片方ずつ腕を取って歩きだした。
「ねえ、知ってる? 学校の近くで男の人が……」
「知ってる、知ってるから。もう、うんざりするくらい」
「丁度その話をしていたところなの。夏月ったら、痴情のもつれだなんて言うのよ」
詳細を聞いた凪子は、大袈裟に笑い声を立てた。真っ当な見解を述べただけなのに、何が可笑しいというのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!