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「だって、実際に目撃したわけじゃないし、そう考えるのが妥当よ」
二階の廊下で、出席簿を抱えた体育教師の唐澤と擦れ違う。凪子は冴えない容貌の教師を横目に囁いた。
「唐澤センセなら、ある意味呪いが目に見えてる、いい例よ。合コンで百怪談を語れるくらい、惨敗続きなんですってよ」
思わず吹き出した美海に、当人は怪訝そうな表情で振り返る。凪子は清楚な見た目とは裏腹に、けっこう辛辣なことを言う。夏月は、ふと疑問に思ったことを口にした。
「ねえ、呪いの動画って、本当にあるのかしらね」
美海と凪子は互いに顔を見合す。教室へ着いてからも、聞こえてくるのはその話題一色だった。今日から期末考査だというのに、教室の雰囲気は気の緩んだ考査後に近い。
「……実はね、わたし、動画を観たの」
予鈴が鳴る。いつもより耳に響く、大きな音だった。鐘が余韻を残すように、美海の声は残響となって頭の中で繰り返される。
「え、観たって、何を?」
「だから、……つまりこれよ」
凪子の問いに、美海は自分の頸を片手で絞める振りをした。先程まで笑い飛ばしていたことが、急に不安な要素を持ち始める。凪子もそれを感じたようで、顔から笑みが消えていた。お喋りを止めて着席しだすクラスメイトを余所に、三人は無言で後方の入り口に留まる。
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