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「……なんちゃって。わたしが観たのは、マッサージの動画。部活で疲れた躰を癒したくて、お風呂上がりにやってるの。ビビらせちゃった?」
「やだ美海、本気で心配したじゃない!」
凪子は一転安心した顔つきで、悪戯っぽく笑う美海の肩を叩く。確かにテニス部の彼女なら、肩や頸周りが凝るに違いない。以前、体育の授業中に、良いストレッチはないかと唐澤へ相談していたのを思いだした。
日焼け止めを塗ってもなお、運動部であることを隠せない肌色へ夏月の視線は集中した。こんなに間近にいるのに、その無防備な領域に直接触れたことがないとは不思議だ。誰かに許したことがあるのだろうか。友人として手を握ったり抱き合ったりしても、そこへ手を伸ばすのは憚られるのだ。
「さあ、夏月も美海もそろそろ気持ちを切り換えないと。さもないと、呪いより怖い目に遭うわよ」
美海は背中を押して、二人をそれぞれの席へ向かわせた。夏月が窓際の席に腰を下ろすと、美海は真ん中の最前列からわざわざ振り返ってウインクを寄越す。「大丈夫」を表す、彼女のとびきりの合図だ。夏月もそれに応えて、一瞬だけ片方の瞼を閉じる。
美海が廊下側にいる凪子へも同じ合図を送ると、本鈴とともに担任が教室へ入ってきた。ホームルームにて、出席確認と試験についての簡単な注意事項を伝えた担任は、そのまま一限目の試験監督として教卓に居座る。
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