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3.紫陽花
週末を迎え、夏月は久しぶりに街へ出掛けることにした。期末考査期間が終わり、張り詰めていた緊張感から解放されたためだ。朝に立ちくらみを起こしたが、珍しいことではないので特に気にせず家を出た。
学校とは正反対の路線バスに乗り、この界隈で一番の繁華街へ向かう。目的は、駅前の百貨店に新しくできた書店だ。そこでお目当ての小説を何冊か購入し、隣接する甘味処で一番人気の餡蜜を頂く。後は予定を特に決めておらず、自由気儘に過ごすつもりだ。
幸い天候は悪くなく、梅雨空は影を潜めている。念のために折り畳み傘をトートバックに入れてはいるが、天気予報が当たれば傘を使わなくても済みそうだ。その分、気温が高く蒸し暑い。
ロータリーでバスを降り、人で混み合う横断歩道を渡る。微睡みから覚めつつある太陽の下、五分ほど歩いて百貨店へ到着した。額にはうっすらと汗が滲んでいる。夏月は肌がベタつくのも構わず、軽い足取りで一階の婦人服売り場を横切った。
美海であればこんな場合、まずお手洗いへ行き、真っ先にボディシートで全身の汗を拭うに違いない。テニス部の彼女は試合や部活終わりに、よく使い捨ての汗拭きシートを使用しているからだ。夏月は頻繁にその姿を見かけたことがある。
服装だってもっとお洒落に決まっていると、夏月は思う。ゴールデンウィーク中に美海と二人で、この百貨店の隣にある映画館に寄った。そのときの美海は、薄卵色のニットにリボンベルトのついたワイドパンツという、本人の可愛らしさを際立たせた出で立ちであった。黒のセーターにジーンズ姿の夏月とは正反対だ。
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