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黒々とした空に、ぽっかりと丸い月が浮かんでいる。
こういう満月が近い。こういう夜は、大抵人も魔性も無駄に活力で溢れてしまうものなのだ。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
少女の絶叫は、学校の外にまで聞こえていた。否、自分だから聞こえたのかもしれない、と少年は思う。息を切らせながら正門の前に辿りついた時にはもう、辺りは沈黙に包まれている。
「遅かったか……」
ちっ、と舌打ちをする少年。今日、何かが動く。その予感を感じて、八時を回っているにも関わらず一人小学校の前まで来たというのに、どうやら間に合わなかったらしい。
既に、魔性の気配は消えている。
そいつは獲物を喰らって、さっさと自分達の世界へと帰ってしまったということらしい。――この世界に開いてしまった、あってはならない門を通って。
――魔性は消えたが、まだ門は残っている。これではまた、いずれ……。
時間がない。門が開いてしまったのなら、開いた魔物以外がこちらにやってくるのも時間の問題だろう。少なくとも本人は今回のことに味をしめてまた繰り返すはずである。
今ならまだ、攫われた少女を助ける方法もあるかもしれないが。
――早く見つけなければ。
少年は、拳を握った。
――何処にいる?俺の、相棒の騎士は。
夜の片隅。誰にも知られず、ひそかに舞台の幕は上がっていたのだ。
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