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その夜空は、まだ学校に来ていないようだった。今日は自分も莉紗も麻巳子も、相談をかねてかなり早い時間に来ているから当然と言えば当然なのだが。
――瞼の裏に焼き付いてるってのに……未だに、信じられない。あんなことが、本当に現実にあっただなんて……。
うっかり寝ぼけて白昼夢でも見ていた、という方が遥かにマシである。自分で見たことのはずなのに、現実味がなさすぎて未だに信じられないだなんて。
『とりあえず、俺はこの学校に転校してきたばかりで、調査が足らない』
自分は何をすればいいか。そう尋ねた花火に、夜空は言った。
『だから、まず七不思議に何があるかを調査しなければならない。それはお前がやれ。その七不思議の中から、球磨美郷が昨夜立ち寄ったと思われるスポットを絞り込むことにする』
『そんなことできるのかよ?』
『できる。根拠は明日話す』
夜空いわく。彼は、美郷がいなくなった夜の段階で異変を感じ取っていたらしい。学校で、大きな力が動いたことに気づいていたという。だから急いで学校に駆け付けたものの、自分が到着した時には力の気配が消えてしまっていて後を追うことができなかったのだそうだ。
美郷が学校の何処で消えたのかはわからないが、白魔の本体が動いたのは間違いない、と夜空は断言した。
『式魔が誰かを襲ったのとでは気配が違う。お前も、ある程度経験値を積めばわかるようになるだろう。球磨美郷が遭遇したのが本体、ということは……本体が潜んでいる七不思議の場所に彼女は向かったはずだ。それを探し当てなければ、本体を叩くことも、彼女を助けることもできない。わかるな、デカ女?』
理屈はわかった。わかったが、肝心要の七不思議が大量発生状態では絞り込むことなどできそうにない。本人は絞り込める根拠があるみたいな言い方をしたが、それならそうと昨日の段階で教えてくれればいいものを。
――というか!いちいちデカ女って呼ぶんじゃねえーつーの!せめて苗字で呼び捨てにされた方がマシだっつーに!!
ああ、なんだろう。そんな場合じゃないのに、思い出したらまた腹が立ってきてしまった。
「……花火ちゃん!」
だから、麻巳子が声をかけてきていることにすぐには気づけなかったのである。んあ?と思って見れば――少し青くなった彼女の顔が。どうしたのだろう、と思えば。
「あ、ごめん、考え事してた。何?」
「あ、うん……その、大したことじゃないんだけど」
彼女はやや視線を彷徨わせて、それから。
「その。花火ちゃんはさ、七不思議とか都市伝説みたいなのって、全然信じてない派だよね?」
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