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「え?えっと、全然っていうわけじゃないんだけど……」
花火は言葉を濁す他ない。実際、ちょっと前までは幽霊なんてほとんど人の作り話かヒステリーで見た幻だろうと思っていたのは事実だ。あまりその手の類を信じてないからこそ怖がったこともないのだ、ということは友達にもよくする話である。残念ながら、そういう非現実な出来事は実際にあり得るのだと、昨日知ってしまったばかりではあったが。
「……実はあたし、七不思議調べてて……いろんな友達に聞き込みしてたらさ、結構怖い話も聴いちゃって。七不思議のいくつかでは、実際に人が不自然に消えたり、怖い事故が起きたりしてるみたいなの」
どうやら、それをずっと話そうかどうしようか迷っていたということらしい。麻巳子は躊躇いがちに口を開く。
「例えば“赤く染まるプール”。この話の元になった事故は本当にあったみたい。この怪談の内容、知ってる?」
「あーうん。掲示板に書いてあったから。昔、一年生の女の子が排水溝に足を吸いこまれて、抜けなくなって溺れ死んじゃったんだっけ」
「そう。女の子は苦しくて苦しくて水の中で暴れた。足を無理やり引き抜こうとして傷だらけになって、プールの床をがりがりと引っ掻いて爪がみんな剥がれてしまった。吸いこまれた足も無理に引き抜こうとしすぎて脱臼して、こっちもこっちで傷だらけになって……それで血だらけになっちゃって、プールがその血で真っ赤になっちゃったっていう。……まあ、血の件はすごく盛ってるんじゃないかと思うんだけど、排水溝に足を吸いこまれた女の子が溺死したって事故は本当にあったみたいで」
ぶるる、と麻巳子は体を震わせる。
「プール開きがもう来月じゃん?その前に、みんなでプール掃除するのが恒例でしょ。今回何年生が当たるのかわかんないし、六年生がやることになる可能性は低そうだけど……。その、プール掃除する時に、事故が起きることが多いって知ってた?“赤く染まるプール”の呪いだって言われてるんだよね」
「え」
それは初耳だった。掲示板で見たのは“体育のプールの時間に泳ごうとすると、プールが真っ赤に染まる時がある。その時は事故が起きるから、けして水に入ってはいけない”というものだった。実際に赤く染まったのなんか自分は見たことないけど!と書きこんだ本人は笑っていたようだが。
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