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「掃除の時は水を抜いているからいいんだけど、それなのにプールの排水溝に足や手を吸われて動けなくなる人が時々出るんだって。暫くすると抜けるからいいんけど、抜く時に怪我をした人が何人かいて……死んだ女の子が祟ってるなんて言われてるの。だから、あたしちょっと怖いなって思っちゃって。時期も時期だしさ……。幽霊なんていないって、本当はそう思いたいんだけど」
なるほど。幽霊否定派の花火には、笑われるかもしれないと思って話せなかったということだろう。実際に幽霊を見たという人がいるわけではないから、本当にただの事故なのかもしれないが――しかし、水もないプールの排水溝に吸い込まれるというのは妙と言えば妙である。
「確かにそれは怖いね。事故か幽霊かわからないけど」
「そ、そうだよね。ただの事故かもしれないよね」
「あたし、幽霊とかあんま信じてないって言うけど。それは、いなければいいなーって希望的観測も入ってるっていうか?だから、完全否定派じゃないよ。そこは心配しないで」
「ほ、ほんと?ありがと」
花火の言葉に、ほんのちょっとだけ麻巳子は安堵した顔を見せた。そもそも、同じ話をしたところで相手によって信用度は大きく変わるのだ。麻巳子がおばけを見たと言うのと、そのへんのクラスのワルガキがおばけを見たというのとでは信頼性がかけ離れているという道理である。話の内容だけで、信じる信じないが決まるわけではないのだ。
――……ひょっとしたら、本当に怪異が起きたことがある……みたいな怪談は白魔とやらの本体が潜んでいる可能性が高いんじゃ?
唐突にピーンと来た。魔物の本体が潜んでいる怪談なら、実際に怪異を起こしたことがある可能性が高いのではなかろうか。
「……そういう話に、美郷も興味持ってたかもしれないよな?」
ゆえに、花火は二人に問いかけるのである。
「過去に、祟りかもしれないみたいな事故が起きたり、神隠しがあったって話がある怪談……“赤く染まるプール”以外にもある?」
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