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「あそこって、靴箱?なんで?」
「……やっぱりしていないか。探偵には向いてないな、その頭じゃ」
「んだと!?」
何でこいつはいちいち癪に障る言い方をするんだ!と頬を膨らませる花火。顔は綺麗なのに、言葉にいちいち棘がありすぎる。というか、他の女子と会話していてもそんな毒を吐いているように見えないのに、自分相手だけキツすぎるような気がするのは気のせいだろうか。助けて貰った借りがなければひっぱたいてやっているところである。
「球磨美郷の靴箱だ。彼女の上履きが残っているかどうか、普通は確かめるだろうが」
「あ」
そう言われて、花火にもようやく合点が行った。確かに、もし上履きが残っていたら彼女は学校の外に出てからいなくなったことになり、靴が残っていたら校舎内でいなくなったことになる。職員室に鍵を取りに行ったかどうかまでは気にしたのに、そんな簡単なことにも思い至っていなかった。
そして、夜空が体育倉庫を“外れ”とみなしたということは。
「美郷の靴が残ってて、上履きがなかったってことか……!」
「その通り」
つまり、彼女は校舎内で消えている。特にトラブルが何もないなら、靴を履き替えることもせずに外に出る筈がない。正確には、彼女が忘れ物を取りに行った時間正面出口は施錠されていただろうから、内側から鍵を開けていないなら職員用出入り口から出入りしようとした可能性が高いが――それでも靴を置いていくことはあり得ないだろう。
というか、美郷のことだ。職員用入口から出入りしても、靴はわざわざ靴箱に一度置きに来ていてもおかしくない。というのも、職員用出口が下駄箱からそこまで遠くない場所にあるからだ。
「つまり、校舎の外の怪談は全て除外されるということ。プールなんかも除外だな、一度外に出ないと行くことができないから」
ノートに書かれた三十個の怪談のうち、いくつかが彼の手によって斜線で消された。
「では、問題。次に除外できるのは、どんな怪談だと思う?少しはお前も考えて見ろ」
「え、まだ減らせるの?」
「当たり前だ、ほら」
「え、えっと……」
永遠に続く廊下。
男子トイレから走り去る少年。
下駄箱で掴まれる腕。
職員室で鳴る死神電話。
音楽室にある演奏してはいけない楽譜。
鳴り響く死のホルン。
夜中に歩く人体模型。
あるはずのない地下への階段。
保健室の解剖手術。
理科準備室で響く嗤い声。
呪われた三年四組。
屋上で招くカナコさん。
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