<2・消失。>

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<2・消失。>

「美郷がいなくなった?」  海ヶ原小学校(うみがはらしょうがっこう)六年二組の教室で、加賀花火(かがはなび)はすっとんきょうな声を上げた。  何でもクラスメートの球磨美郷が、昨日の夜から家に帰っていないというのだ。 「うん……美郷ちゃん、夜遊びとかするようなタイプじゃないんだけど」 「夜遊びて。いや、小学生だろ」 「不良系の小学生も世の中にはいるんだよ花火ちゃん。美郷ちゃんは違うけど」 「えー……」  そういうもんかなあ、と花火は首を掻いた。そして、頭一つ分以上低い、美郷の友人の少女二人を見下ろす。  体育の授業のためだけに学校に来ている女――なんて言われるタイプ。それが花火だった。大抵のスポーツだったら男子にもまず負けない。かけっこだけはクラスの男子で一人競っている奴がいるが、ドッジボールや綱引きで男に負けたことは一度もなかった。それは、花火が幼い頃から空手道場に通っていてフィジカルおばけということと、成長が早いせいで小学生には大抵見られないくらい背が高いからというのが大きいだろう。  多分家系的に背が伸びやすいのだと思われる。既に165cmの花火よりも母は大きいし、父に至っては190cm近くあるからだ。おかげで、ランドセル背負って歩いているとちょっとびっくりされることもしばしばである。  それで小さな頃は馬鹿にされて嫌な思いをしたこともあるが――今は、体力も腕力もあるこの体は花火にとって自慢だった。スポーツにしろ何にしろ、友達の役に立てる場面が多いからである。友達を狙っていた変態をぶっとばした時は、警察から感謝状を貰うと同時に親からは“危ないでしょ”と叱られもしたけれど。 「まあ、本当に夜遊び小学生?とやらがこの世にいるとして」  ちょっと大人向けの漫画でも読みすぎてない?と心の中で花火は思いつつ。この学校では、そんな不良じみた小学生なんか見たこともない。花火の目が届かない場所にいる可能性もゼロではないが。 「少なくとも美郷がそういうキャラじゃねーってのは同意するわ。あいつ真面目だしな」  ちなみに、今は朝のホームルーム前の時間である。友人達から、ちょっとしたもめごとの相談を受けることは花火にとって珍しいことではなかった。 「いなくなった経緯は?昨日ってさ、お前らと美郷んちで一緒に遊ぶ約束してなかったっけ?」 「遊ぶ約束じゃなくて、宿題やる約束だってばー。花火ちゃんと違って、あたし達はちゃんと宿題やるんですー」
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