私はビーチサンダル6

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私はビーチサンダル6

しまった、と思った。 見つかってしまったのだ、と。 私がこのままただのビーチサンダルにならなかった場合、私は酷く叱られることになるだろう。 小さな町だ。 あそこのコは入水自殺をしようとしてヘリコプターにより命を救われた、頭のおかしな子なのだ、と、ふれ回る人々が多くいることも想像に難くなかった。 そして、何より世間体を気にする両親のことだ、私を部屋に閉じ込め、二度と外へ出られなくしてしまうかもしれない。 それ以前にめちゃくちゃに罵倒され、ひっぱたかれ、蹴とばされ、痛い目を見ることになるかもしれない。 そう考えると、痛い目には合わないビーチサンダルになる、と言う選択は魅力的ではあったのだが、見つかってしまったのでは仕方がない。 一番無難なのは、このまま海と言う私がいるべき場所であるここを去り、蹴っ飛ばして倒れた自転車を起し、びしょ濡れのまま雨の中を帰路につき、風呂へ入って着替えを済ませて、学校へ向かう準備をすること。 それしかもう残されていない。 ヘリコプターの中から、拡声器を使っているのか何なのかはわからないが、多分私へと向かって何か声をかけているらしい、と言うことがわかる。 砂浜へ戻れだとか、こんなところで死ぬなとか、多分そう言ったことだったりするのだろうか。 耳の半分までをも海水に時々晒されていた私には上手く聞き取ることが出来なかったが、私はどうやら失敗したらしいと言うことだけはわかった。 体を反転させようと身を捩ると、水分をたっぷりと吸い込んで重たくなってしまったキャミワンピースがその行動の邪魔をする。 なんとか、どうにか、この場をなんとかおさめなければ、と必死で腕や脚をバタつかせ、私を纏うどこまでも美しいと思っていた自然の驚異に抗ってみせる。 時々私の脚の裏から離れ、ぷかぷかとゆらゆらと漂って、どこかに流されてしまいそうになるビーチサンダルに、私は「絶対に持って帰る」のだと言う強い意志を持って、爪が食い込むほど内側へとギュっと握り込むようにして履いていた。 私は、戻るのだ、あの浜辺に。 ねえ、私はまだ、ビーチサンダルなんかじゃないよね、と、両親に聞いてみたかったのかもしれない。 私がもし、ただのビーチサンダルだけになったら、少しは哀しんでくれるよね?と、聞いてみたかったのかもしれない。
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