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私はビーチサンダル7
ヘリコプターが、私の足掻きを見て勘違いして新たな救いの手を寄越そうと事を大きくしてしまう前に、私は必死で水を掻き、脚を伸ばし、ワンピースを引きずって、砂浜へと息も絶え絶えになりながら這って行った。
そんな私の姿をしばらく観察するように、見守るようにヘリコプターは旋回し続けて、そうして私がなんとか立ち上がり、トボトボと波のせいだけではなく白から灰色へと染まった砂浜を踏みしめはじめると、ゆっくりとどこかへ行ってしまった。
よかった、私は助かった。
あれ、助かったのだろうか。
こんなはずではなかったような気がした。
私は濡れたワンピースの裾を腹まで捲り上げるとぎゅっと絞って、さばざばと海水を道路へと降らし、水たまりを増やした。
全然天気雨になんてならなかった。
晴れると思っていたその太陽は結局、大きな雨雲の中へと姿を隠してしまった。
少し激しくなった雨の中、黄色の自転車を起すと、雫の垂れる髪を掻きあげると、サドルにまたがった。
そして、蹴っ飛ばしてコンクリートに擦れて一部塗装の剥がれた、カゴの曲がってしまった自転車に、今日はじめての泣いて、ペダルを漕ぎ出した。
私は、ビーチサンダルにはならなかった。
私は、生きたいらしい。
最初から死ぬ気なんてなかったに違いない。
ただちょっとでも、心配して探しに来てくれたらな、と、そんなことを思っていただけだった。
皮膚を冷たく突き刺す雨音に合わせて、私の瞳がからも雨が降る。
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