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1.コンビニにて
隣りから聞こえた小さくはない舌打ちに、絶望の二文字が景織子の脳裏を掠める。
お先真っ暗な気持ちなど知る由もない男の足が一歩を踏み出そうし、景織子は慌ててその腕に縋った。
「喧嘩しないで」
「するか、あんなガキ共相手に」
小声で窘めれば、呆れたような声が返ってくる。
「ちょっと話してくるだけだ」
「それがだめだって言ってるの」
景織子は龍貴の右手を咄嗟に握る。
龍貴の眉が、二度目の遮りに微かに歪む。
びくびくしながらも、決して離すまいと景織子はその手に力を籠めた。
「どんな洋服着て行こうとか、何色の口紅つけようかとか、先週から凄く楽しみにしてたんだよ。だから、やめて」
ー折角のデートなのに。
気恥ずかしさと鬱々とした表情を交差させれば、極めて真摯な龍貴の顔がこちら側に向けられる。
「前髪、切った?」
覗き込むように見られ、囁くように尋ねられて、景織子は心臓が口から飛び出そうになる。
「髪の色も。気のせいじゃなければ、少し明るくなってる」
全てお見通しの龍貴に、景織子は俯かざるを得ない。
「ネイルも。先週とはデザインがちょっと違ってる」
繋がれた手の指先に視線を落とされ、面映さはいよいよ募る。
「後は、この間とは随分打って変わったスカートの長さかな」
指から足へと移った龍貴のからかいの目線に、景織子はいよいよ何も言えなくなる。
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