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「女って、すぐなんでもかんでも可愛いって言うよな」
そんな景織子の心境など知る由もない龍貴が、語彙力のなさを暗に指摘してくる。
「だって可愛いんだもん」
恥ずかしく思いながらも、答えのようでもあり答えになってないような事を景織子は口走る。
「俺はあっちの方が迫力あって好きだけどな」
左側の水槽に目線を移せば、巨大なクラゲが青く発光しながら水の中で揺れている。
なるほど確かに、大きいだけあってなかなかの存在感だった。
「ゆらゆらしてるのずっと見続けてると、なんか催眠術にでもかかったみたいになら、な…い」
元の位置へと顔を戻せば、間近に迫る彼と目が合う。
近距離で見詰め合えば鼓動は速まり、湧き起きる気恥ずかしさに染まってゆく。
幸い辺りは暗いので、恐らくバレてはいない。
だけど、薄っすらと微笑みを湛える彼はまるで全てを見透かしているかのようでもあり、判断に迷ってしまう。
「クラゲ食べた事ある?どんな味?」
進退極まった景織子が捻り出した質問に、龍貴は面食らう。
「一度も食べた事ないから、前から気になってたんだよね」
「味は特にない。食感を楽しむって表現が一番しっくりくるかな」
「そうなんだ」
「なんでもすぐ食材に変換するな」
額を軽く小突かれるが、ただの場繋ぎから発した話題に過ぎない。
それでこの場を切り抜けられるなら安いものだと、景織子は思った。
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