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「何事も経験だ。割と料理の種類出してる居酒屋知ってるから、今度食べに行ってみるか?」
「あ、うん」
「まあ俺は、クラゲなんかよりももっとずっと食べたいものがあるけどな」
「え、なに?そんな美味しいもの?」
『美味しい』と聞けば、自然と食指は動く。
目を輝かせた景織子の鼻先数センチまで、龍貴が一気に寄る。
「皆まで言わすな」
甘く叱られ、唇に柔らかなものが触れてきた。
ほんの刹那だったが、完璧に虚を衝いた行為に、景織子は固まってしまう。
まるで何かの術にかかってしまったかのように身動ぎしなくなった景織子の手を、再び龍貴は引いた。
「…隣りに、人いた」
遅れて襲ってきた羞恥に景織子は俯く。
「大学生カップルが一組な。自分らの世界に夢中で周りなんか見えてない」
自分達よりも何倍も目も当てられない状態だったのを知る龍貴は、苦く笑う。
「夜…みたいな場所だっだし、近くにはあのバカップルしかいなかった」
ーだから、怒るなよ?
釘を刺されるが、腹を立ててはいなかった。
誰が見ていようか見ていまいが、公共の場ではしないのが前提だった。
しようなんて考えた事もない。
でも今は、その考えは翻っていた。
嫌な事などされていない。
確実に欲望が勝っていた。
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