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「今日も魅了的だ」
景織子息を呑めば、更にびっくりさせるような事を龍貴は口にする。
「この間も今日も、どんな服装をしてようがいつだって景織子は魅力的だ。本音を言うならスカートは短かければ短いほど好みだし、時間をかけてお洒落してきた姿は改めて言うまでもない。許されるなら今すぐ飛びつきたいくらいだ」
髪に触れてきた手は頬を撫で、顎で止まる。
その手に微かな力が加わり、自然と上を向く。
背の高い彼を見上げるように視線を合わせれば、鼓動は高鳴ってゆく。
僅かに自分に寄った龍貴の顔に、壊れてしまったんじゃないかと勘違いするくらいうるさい心臓を景織子はぐっと押える。
「りゅう…」
まだ呼び慣れたとは言えない名を乾いた喉で呟いたところで、ふたりの間に流れていた空気は一変する。
けたたましい叫び声が辺り一面に響き渡り、ぎょっとして振り返れば、恐ろしいまでの声量の持ち主がそこにはいた。
叫び声は、正しくは泣き声。
そこには小学校入学前であろう幼い男の子が佇み、青いイルカのぬいぐるみを握り締めながら肩を激しく上下させている。
両目からぼろぼろと涙を零し、唇を噛み締める様は、第二弾の号泣が間もなく開始される事を示唆していた。
初めこそこんな人目につくような場所でふたりの世界に浸ってしまい、不必要に驚かせてしまったのかと反省したが、直にそれは間違いだと分かった。
この様子は、恐らくー。
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