3.水族館にて

9/13
前へ
/81ページ
次へ
「こんな小さい子になんでそんな酷い事言えるのよ」 「泣いて迷子が解決するか」 「おにっ。あくまっ」 「どうせ勝手にウロチョロして、自分から迷子になったクチだ。甘やかすな」 「子供はそーいう生き物なの。自分だって一回くらいは経験あるでしょ」 「バーゲンに夢中の母親が俺の存在をすっかり忘れて、はぐれた事ならあったな。待てども暮らせども一向に戻って来ない母親に痺れを切らして、自分から呼び出しかけにもらいに行った。『伊集院(いじゅういん)龍貴君のお母さま、龍貴くん4歳がサービスカウンターでお待ちです』ってな」 淡々と語る龍貴に、景織子は怯んでしまう。 可愛げなさ過ぎな子供時代である。 だが、彼も相当だと思っていたが、母親はその遥か斜め上をいくらしい。 流石この彼を育てただけはある。 付き合ったばかりで取り越し苦労もいいところだが、もしもいつか顔を合わせる機会があったとしたら、考えただけで恐ろしい。 青ざめる景織子の横を、数組の来館者達が遠巻きにしながら足早に去ってゆく。 多分だが、親子連れだと思われている。 目を離した隙にいなくなった子供を巡り、夫婦喧嘩が勃発してると勘違いされている。 見る見るうちに、景織子の面は真っ赤になった。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

533人が本棚に入れています
本棚に追加