533人が本棚に入れています
本棚に追加
いつしか自分の存在などそっちのけで言い争いを繰り広げられていた子供は、目をぱちくりさせている。
「景織子」
いけない、いけないー気を引き締めたところで、名前を呼ばれた。
「いい薬だとは思うけど、置いて行って万が一の事があったら目覚めが悪い。受付まで連れて行ってやれ」
「えっ、わたしが??」
景織子は素っ頓狂な声を発してしまう。
人助けを率先してする彼なら、なんだかんだ言っても最終的には自分で手を差し伸べると思っていたから、この指名は意外過ぎた。
「他に誰がいる?」
嫌とか面倒だとかではなく純粋に疑問が零れただけなのだが、有無を言わさぬ眼差しを向けられた景織子は黙ってしまうしかない。
「このご時世、誰に何を言われるか分かったもんじゃないからな。他人のガキ連れ歩いてたら、誘拐犯と間違われて通報されかねない」
うざったそうな龍貴の説明にようやく納得すると共に、景織子の脳裏を不安が掠める。
「でも、それは私も同じじゃ」
彼が指摘するように、昨今の世の中は何かにつけて制限だらけだ。
例え親切心からでもトラブルになったニュースは、毎日のように流れている。
保身に走ってしまうのも、ある意味仕方がなかった。
最初のコメントを投稿しよう!