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prologue
オーストラリアから帰国して1週間。久世という友人の経営するクラフトビールバーへ行く。
「百々おかえり」
「ただいま、久世。本田と成瀬もありがとう」
「2年間のオーストラリア、お疲れ百々」
「元気そうだな」
カウンターに並んで座っていた本田と成瀬とも挨拶すると、本田が隣のスツールにずれて俺を真ん中に促す。
「黒で」
「了解」
俺の両隣で思い思いのビールを手にする本田と成瀬が今日ここに誘ってくれた。
「よし…おかえり、百々。乾杯」
「「「乾杯」」」
オーストラリアにいる間もこの二人とは定期的に連絡をとっていた。定期的と言っても忘れた頃に少し連絡を取り合う程度だ。久世と、あともう一人の友人は俺がオーストラリアに渡った直後に数回連絡をくれたが、俺の生活が安定したことを伝えると連絡は途切れた。俺からも特には連絡しない。それぞれの生活が忙しく充実している30代半ばのことだ。それでかまわない。
どれだけ久しぶりであろうがこうして顔を合わせば、互いに夢を熱く語り合った学生の頃の親しみが甦る。違うのは、あの頃はまだビールをこんな風に飲み慣れていなかったことだ。
「湊にも電話したけど出なかったんだよ」
「俺がもう一度電話してみようか?」
本田に言って久世が電話を掛けると、長いコールのあとで湊が応えたようだ。
「デート中だって」
「そりゃ電話にも出なかったはずだ」
電話を終えると、すぐにハワイアンポチキを俺たちの前に出してくれた久世にビールのおかわりを頼んだ。
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