ⅩⅠ

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はづは朝からこちらへ来ると聞いていたから、湊のマンションへはまた昼前になるんじゃないかと思った。そこで以前住んでいたマンション近くのベーカリーを思い出し、まだやっているか検索してから車を走らせる。 食パンが人気の店で当時は実家へ行く時に‘買って来て’と言われていた。今日も普通の食パン1本と、くるみとレーズンの入った食パン1本を買うことが出来た。二人暮らしで2本の食パンは多すぎるが、実家で冷凍しているのも見たから大丈夫だろう。 ベーカリーから帰ると、掃除機をオンにして動き始めるのを見ながら、こういう家電等、まだまだはづが揃える物はあるんじゃないかと自分の部屋を見渡す。俺の部屋に物が多いとは言わないが、人間は何て多くの物に囲まれて生きているのかと考える。pururu… 「はづ、終わったのか?」 ‘うん。今お姉ちゃんのマンションに向かってる’ 「わかった。後でな」 ‘はぁい’ たったそれだけのやり取りで終わった電話に不満はない。会って話せばいいのだから。それに、ゆづが留守番している部屋だが、彼女たちの結婚前から何度も会っているので、湊のいない部屋に俺が先に到着してどうする?などと、細かい時間を気にしなくていいのがとても気が楽だ。 案の定、俺の方が一足先にマンションに着いたがゆづがエントランスを開けてくれた。 「こんにちは、百々さん。どうぞ」 「お邪魔します。ゆづ、体調は?」 「普通ですね。すっごく元気モリモリとは違う気もするけど普通っていう感じです」 「暑いからなぁ」 「はい。でもたぶん…原因は気分なんです」 「何か心配事?」 「ううん、そうじゃなくて…現場に行く回数が減って禁断症状」 「禁断症状?そうか、そうか…その現場でも部屋でいろいろ考えるだけだからな。たまには壁壊したり、大工仕事を手伝いたいんだな」 「その通りです。こうして人の気持ちを汲み取ってくれる百々さんが葉月と付き合ってくれることになって嬉しいです。ありがとう、百々さん」
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