ⅩⅠ

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「美味しいパンだね」 「とっても。今日、焼かずに食べてみて正解。明日は焼いてみる」 食後のデザートのように、適当に切ったくるみとレーズンの食パンを口へ運びながらノンカフェインの珈琲を飲む姉妹に 「また買ってくるよ」 と言うと 「百々、頼む。夕月が気に入っている」 と湊がわざわざ俺に言う。 「夕月はきついつわりはなかったが、妊娠してからムラ食いの傾向はある」 「そうなのか?」 「ああ。今日はこうして昼も食べて、パンまでかじっているが‘今日は無理’って言ってスイカばっかり食べたりする」 「しろさん、あんまり言わないで。事務所にもお昼持って行って気をつけてるもん」 「だな。夕月はちゃんと子どものことを考えて頑張ってる」 少し頬を膨らませたゆづの後頭部を撫でた湊が続けた。 「夕月が美味しいと言って食べられるなら常備しておきたい。夕月、冷凍するだろ?」 「うん」 「そうか、わかった。たまに買ってくるようにするな、ゆづ」 「だいさん、ベビちゃんのためにもお願いしまぁす」 「了解した。ゆづ、はづの引っ越しの心配もいらないからな。俺、8月後半はずっと休みだし俺が手伝いするから、ゆづは暑い間はじっとしてて」 「そうだよ。気になるなら私とだいさんがここで報告会をするからね」 「ありがとう、百々さん、葉月。心配はしてないんだけど…自分が思い切りは動けないなぁって思っているだけ。こうして…こんな普通のご飯だけど良かったら二人で食べに来てね。出づらい分、ここでお喋りしちゃおっと」 「来る来る来るよーねっ、だいさん?」 「ああ。俺、はづとゆづの会話も好きだからな」 あー新しい関係性が思い描ける今、俺は幸せだ。 「じゃあ、今日はこれで。今から、はづを俺の部屋へ案内するよ」
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