僕の声で僕が君に伝えたかった事

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絵美に伝えたい言葉、それは正式なプロポーズの言葉だった。 僕たちは、イロハが絵美のお腹に宿ったための、いわゆる授かり婚だったから、愛を誓う間もなく、ばたばたと所帯を持った。父親になる準備も夫になる心構えもできていなかった僕はプロポーズどころの騒ぎではなかった。 「パパ、ママにプロポーズしてあげなかったんだってね。ママかわいそう」 小学生のイロハに言われて初めて、絵美がそのことをさみしがっていると知ったくらいだ。自分の声で自由にしゃべれていたら、そんな言葉をかけることなど思いつきもしなかっただろう。そのことを気にしていたつもりはなかったが、一度思いつくとそれ以外にないと思った。
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