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いつも自分に自信があってチャラついている、陽気で軟派なイメージの北宮くんとは遠くかけ離れた姿に、私は表情筋がゆるみそうになるのをこらえながら、彼と指切りした。
「千代岡さんて、絵ぇ上手いのな」
「一応私、美術部だもん。でも、ほめてくれてありがとう」
ノートに描いてあるのはマンガ的イラストばかりで、美術部員が描いていそうな絵からはほど遠く、だからこそ見られたくなかった。
私がどういうものが好きかがモロに、そこへ詰まっているから。
だから私は北宮くんに背中を向け、手早く自分のカバンにノートをしまう。
そして北宮家を訪ねた理由であるプリントを取り出し、いまだ憂鬱げにうつ向く彼に渡す。
「あのさ、千代岡さん」
「何?」
「見られてしまったから言うんだけど……今オレ、イナズマ小説大賞に応募するための小説を書いてるんだわ」
彼的に秘密も秘密だろう告白に、私は「ええっ、すごい!」と小さく叫んだ。
「イナズマ文庫といったらアニメ化もいっぱいされてる、すっごく売れてるライトノベルレーベルだよね?!」
北宮くんがプロの小説家を目指しているということに、他人事ながらテンションが上がる。
「応募するだけなら誰でもできるし、今回が初投稿予定で何の実績もないから、別にまったくすごくはねぇよ」
「ううん、すごいよ! だって小説の賞に応募するためには、何万字も書かなきゃいけないんでしょ?
私なんてまず、コンテストに応募してみようとすら思わないもん」
「何で? 上手いんだし、イラスト募集してる賞に出してみりゃいいじゃん」
「無理だよ。私程度のレベルじゃ」
一度インターネットの海にもぐれば、プロ並みに絵が上手い素人が山ほどいる。
リアルでだって、奈々夏の方が私より上手いし。
「深刻に考えず、ワンチャン狙っていこーぜ! ――それに作品を完成させるだけでも、意味のあることだと思うし」
心の元気を取り戻したらしい北宮くんは、ぺたんと尻をついて足を投げ出した脱力座りから、あぐらへと体勢を変えた。
「そうなの?」
「完成させたら、自分が苦手にしているところだとか、足りないところだとか、作品をよりよくするための課題が見えてくるじゃん」
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