4・DDくんの秘密(後編)

2/4
81人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
いつも自分に自信があってチャラついている、陽気で軟派なイメージの北宮くんとは遠くかけ離れた姿に、私は表情筋がゆるみそうになるのをこらえながら、彼と指切りした。 「千代岡さんて、絵ぇ上手いのな」 「一応私、美術部だもん。でも、ほめてくれてありがとう」 ノートに描いてあるのはマンガ的イラストばかりで、美術部員が描いていそうな絵からはほど遠く、だからこそ見られたくなかった。 私がどういうものが好きかがモロに、そこへ詰まっているから。 だから私は北宮くんに背中を向け、手早く自分のカバンにノートをしまう。 そして北宮家を訪ねた理由であるプリントを取り出し、いまだ憂鬱(ゆううつ)げにうつ向く彼に渡す。 「あのさ、千代岡さん」 「何?」 「見られてしまったから言うんだけど……今オレ、イナズマ小説大賞に応募するための小説を書いてるんだわ」 彼的に秘密も秘密だろう告白に、私は「ええっ、すごい!」と小さく叫んだ。 「イナズマ文庫といったらアニメ化もいっぱいされてる、すっごく売れてるライトノベルレーベルだよね?!」 北宮くんがプロの小説家を目指しているということに、他人事ながらテンションが上がる。 「応募するだけなら誰でもできるし、今回が初投稿予定で何の実績もないから、別にまったくすごくはねぇよ」 「ううん、すごいよ! だって小説の賞に応募するためには、何万字も書かなきゃいけないんでしょ? 私なんてまず、コンテストに応募してみようとすら思わないもん」 「何で? 上手いんだし、イラスト募集してる賞に出してみりゃいいじゃん」 「無理だよ。私程度のレベルじゃ」 一度インターネットの海にもぐれば、プロ並みに絵が上手い素人が山ほどいる。 リアルでだって、奈々夏の方が私より上手いし。 「深刻に考えず、ワンチャン狙っていこーぜ! ――それに作品を完成させるだけでも、意味のあることだと思うし」 心の元気を取り戻したらしい北宮くんは、ぺたんと尻をついて足を投げ出した脱力座りから、あぐらへと体勢を変えた。 「そうなの?」 「完成させたら、自分が苦手にしているところだとか、足りないところだとか、作品をよりよくするための課題が見えてくるじゃん」
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!